はじめに
横山研究室では『ソーシャルビッグデータ分析』と『5Gの高度利用』の2つの課題を研究の柱としています。一見、バラバラの課題のように見えるかもしれませんが、ともにとてつもない大きさのデータを扱わなければならないという点で共通点があります。Twitterのツイートのようなソーシャルビッグデータは日々膨大な量のデータが生み出されています。我々の研究室はデータ科学・データ工学分野の研究室として、この膨大なデータと日々格闘しています。
一方で5Gは新しい世代の移動体通信網として普及を始めています。これまでの規格とくらべ、通信速度・通信台数・通信の信頼性が飛躍的に向上すると期待される5Gは、裏返すと膨大なビッグデータを垂れ流す機器であるとも考えられます。ここにもやはりデータ科学・データ工学として大きなデータと格闘しなければいけない課題が沢山存在しています。
横山研究室では、このとてつもない大きさのデータを、収集・蓄積・分析・可視化するプロセスを通じて、単なる0と1のデータではなく、意味のある情報として、私達人間が理解できる形で提示する技術の研究を行っています。
ここでは横山研究室の2つの研究の柱についてなるべく平易に解説します。
ソーシャルビッグデータ分析
インターネットが社会インフラとなり、SNSが日々のコミュニケーション手段となっている現在、私達は容易に世界の反対側の人達と交流する事ができます。さらにはVR技術の発展により、遠隔地の友達とあたかも同じ場所にいるかのようにメタバースで遊ふという世界が、すぐそこに来ています。インターネット技術・ソーシャルネットワーク技術・VR技術により、私達が実際にいる場所は、もはやなんの意味を持たない存在であるかのような説明がそこかしこでされています。
でも、本当でしょうか?
もし日本にいる貴方が地球の反対側のブラジルの友達とメタバースで一緒にいたとして、そのブラジルの友達と一緒に出かけて、本場の美味しいシュラスコを食べる事はできるでしょうか?メタバースのアバターが、バーチャルなシュラスコを食べる事は出来るかもしれませんが、それで貴方のお腹が膨らむことはありません。しょうがないのでVRゴーグルを外して、貴方の家の近くにあるシュラスコ料理店を探して行く事になります。もちろん舌に直接刺激を与えてシュラスコの味を再現する技術や、胃に毒にも薬にもならないものを流し込んで満腹感を演出する技術はいずれ実現するかもしれませんが、『車を運転する』という楽しみを奪われつつある私達人類が、さらに『食の楽しみ』も手放せるのかは、私は疑問に思います。
結局、私達は「今居る場所」から離れる事はできないのです。Uber eatsや出前館だって、数キロ圏内の美味しいモノしか運んできてくれません。一周40,075kmの地球上に張り巡らされているインターネットを使って、貴方は5km先の海鮮丼を取り寄せるしかない訳です。このようにインターネットが世界を結んでいる現代だからこそ、私達が「居場所」に縛られて生きている事が顕在化していると言えます。だからこそ、この社会の『有り様』を分析する際に、「場所」や「移動」という地理的な概念が、より重要なファクターになってきていると言えます。
横山研究室ではソーシャルビッグデータが内包する「場所」に注目して、基礎的なアルゴリズムの研究から、実データを分析する応用研究まで幅広く行っています。それらの研究の共通するアイデアは「情報の偏在性と遍在性に着目する」という点です。人間が発する情報は、たとえそれが無味無臭なセンサデータであったとしても、情報には偏りが発生します。例えば以下の3つの図をご覧ください。
これはFlickrという写真共有SNSで共有されている写真の撮影位置をヒートマップで表現したものです。ヒートマップとは頻度が多い場所ほど赤く彩色される可視化方法で、この図では沢山写真が撮られるいる場所が赤くなっています。3つの図はそれぞれ違う被写体を写した写真の撮影位置なのですが、それぞれ赤い場所に明確な偏りがある事が見て取れます。
これは左からビールの写真、ワインの写真、ウイスキーの写真の撮影位置になります。必然的に人口の多い都市は赤くなりがちですが、3つの図の差異に注目してみてください。例えばビールではアイルランドのダブリンやドイツのバイエルン州で赤くなっています。それぞれギネスの街とオクトーバフェストの街ですね。ワインはどうでしょうか。全体的にスペインやイタリア等ヨーロッパの南側に赤い部分が多い事がわかります。加えて、他の図では赤くなっていないフランスのボルドー付近で顕著に赤い領域が広がっています。ウイスキーはスコッチですから当然スコットランドが赤くなっています。
このように、私達が「ビール」や「ワイン」や「ウイスキー」といった語から感じる地理的な特徴は、Flickrの大勢のユーザが撮影し投稿した膨大な量の写真の撮影位置にも表れている事が分かります。つまりSNSというのは、私達の脳みその中がそのまま投影されていると言えるのではないでしょうか。
ソーシャルビッグデータの分析は、単に「大きなデータがそこにあるから分析するのだ」というだけでなく、SNSに投影された私達の社会そのものを分析するんだという事に繋がります。
5Gの高度利用
現在、執筆中です。近日中にアップデートします。
5Gによって、私達の